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マタギことば・やまことば

山に入ると戒律が厳しく、多数の忌み言葉を使う。それを「マタギ言葉」略して「マタギ」とも呼ぶ。山の神を尊敬し礼儀を尊び、日常生活の「汚(けが)れ」をはらい、猟場を汚さないためにマタギ言葉を用いた。
田楽舞に出てくる里の神は素晴らしく美人であるが、山の神は恐ろしく醜く表現されている。室町時代ごろより自分の妻のことを「うちの山の神(のような醜い妻)」と卑下する表現に使われた。山の神は嫉妬深く、また穢れを忌み嫌うとして、女性は山には入れなかった。
マタギ文化が影響を与えた地域は、東北地方から中部地方にいたる日本海側に多く、「デアイマタギ」・「旅マタギ」といって、狩人がいない地域の猟場に遠征をした。その領域に北那須の山間部も含まれ、山間部を通る街道や、山間部に近い里の人々との交流もあったことだろう。



   あ行
見出し語
文字表記
意味 (特定の地方で使われたものの場合地名)
 あおけら  青けら  カモシカ
 あまぶた  雨蓋  笠 >わかぶた 
 いざさわ  枝沢  沢の支流
 いざなき    牛・馬 (秋田)
 いしてっきゅう   すりばち(行ことば)
 いらくり    木のひばし (会津)
 いたず    熊
 いわつら    うさぎ (越後)
 うじ    けもの道
 うちわかへだる  内わかへ垂る  小便する わか=水
 えごろ   柄杓(房総) 行ことば
 えぎしこたてる    たき火をする 火をたく (秋田)
 えぐし  柄串  槍(やり) (津軽)
 えげ    火 (奥州)
 えびす  恵比須  猿 (陸中)
 おいさみ    酒(房総) 行ことば
 おあらため  御改め  死ぬこと 行者が使ったことば (富士)
 おきゃく  お客  狼 
 おくさり    味噌 (石城) お腐りか?
 おぐま  大ぐま  大鍋 >こぐま (越後)
 おしゃくわ    火(房総) 行ことば
 おてつき    火箸(房総) 行ことば
 おはしり    汁 (石城)
 おびき    牛・馬 (越後)
 おひや お冷や 柄杓(房総) 行ことば 
 おんつぁま    猿 (板室) >きんじもん

   か行
見出し語
文字表記
意味 (特定の地方で使われたものの場合地名)
 かえなめ    塩 (越後)  汁 (津軽)
 かくり    杓子 (津軽)
 かすみ    茶(房総) 行ことば
 かつぐ    獲物が巻いたところから逃げること 忌み言葉で、銃も肩掛けでの携帯は禁じられた
 かっとり    飯杓子 (十和田)
 かまよこ  鎌横  鎌 (津軽)
 きむら    猿 (四国)
 きよわか  清わか  酒 
 きんじもん  禁じ物 山の中で言ってはいけない言葉。女に関する言葉、殺す・死ぬに関する言葉などで、この禁を犯すと厳重な罰があった (秋田) 百村・板室でも「猿」をサルと言ってはいけない、という決まりがあった。皆「オンツァマ」と呼び、サルと誰かが言うと、もうその日は山に入らない。昔岐阜県から木流し(木を川に流して運ぶ人)が来た時も、サルという言葉を聞くと「仕事に出ないから、今日の手間賃は出せ」と言ったという。サル=去るで死を匂わせる響きがあるためか。明治期ごろには一般でもサルという言葉を忌み嫌い「山の人」と呼んだ。山の神は女だから、女は(嫉妬するから)山に行くもんじゃないとされた。祭りのときも正月7日の山入りの時も同じである。(那須山麓の民俗)
 くさのみ  草の実  米
 くし    寺
 くびれ    ダル 尾根がすっと下がっているところ
 くぼ    椀(房総〜) 行ことば
 くま    鍋 (越後)
 くまけら  熊けら  熊 「虫けら」などの「けら」(つまらないもの)か?
 くまご    鍋 (越後)
 くまごさし    鍋のふた (越後)
 くら  蔵  猟場 熊などが頻繁に出る岩場地帯 カネグラ(金蔵)、エベスパ(恵比寿場)
 くろげ  黒毛  熊
 けす    いたち (安芸)
 けた

 

 にわとり (十和田)
 けどば  ケド場  熊が冬眠する穴 小屋掛けして寝泊まりする場所もケド場という
  熊穴の種類
  タカス 木にできた空洞、入口が木の上の方にある
  バフ せり出した岩に生えた大木の根の下の空洞
  ネアナ 老木の根にできた穴、木の中が空洞になっている
  イワアナ 岩場に自然にできた穴
  アオリ 斜面に生えた木が倒れてできた穴、木が沢側でなく山側に倒れ根が土を持ち上げる
 けなし  毛無し  僧侶 (南津軽)
 けらな    カモシカ (秋田)
 こおしなり    帯 (秋田)
 ごくうそう    湯(房総) 行言葉
 こぐま  小ぐま  小鍋 >おぐま (越後)
 こしまけ  腰まけ  カモシカ
 こだたき    杓子 (十和田)
 こまがり    キセル (秋田)

   さ行
見出し語
文字表記
意味 (特定の地方で使われたものの場合地名)
 さぎ    味噌 (秋田)
 さね    猿 (秋田)
 さま    岩場、崖などの難所 
 さわぐち  沢口  沢の入口 沢と川の合流点付近
 さんこう    味噌(房総) 行ことば
 しか  鹿  男 >めが (羽前)
 さんぺ    心臓
 しがね    うさぎ (秋田)
 しちべえ    味噌 (越後)
 しかり    マタギが集団で狩猟をする際の総指揮者のこと。狩りの分担、配置を決める
 しちべえどん    味噌汁を煮る人 (越後)
 しね    猿 (津軽)
 しゃちなる    死ぬ (越後)
 しゃちのみ  幸の身  けだものの肉
 しゅうぎだる  祝儀樽  ウサギ 耳の長いのを祝儀の時に使う角樽に見立てて (三河)
 ずいとおくぐり    いたち (安芸)
 するべ    鉄砲 (秋田 明治以降) 「しるべ」とも
 すね    猿
 せた    犬
 せこ  勢子  マタギが集団で狩猟をする際の獲物を追い出す役の人。オイッコとも。
 せたぎ    里の人 マタギと区別して普通の人 (秋田)
     

   た行
見出し語
文字表記
意味 (特定の地方で使われたものの場合地名)
 たかせ  高背  馬 (津軽) 「たかし」とも
 たなが    むしろ (津軽)
 だんじり    うさぎ (青森)
 つぶら    味噌 (越後)
 つのから    牛
 つぶらこい    しおからい (越後)
 どさき    尾根などの先端 その先は崖のようになっている外れ、猟場の最奥 へり ドジャキ
 とま    岩壁 (十和田)
 とろめん    水 兜羅緜(綿)とは関係ないのか?
     

   な行
見出し語
文字表記
意味 (特定の地方で使われたものの場合地名)
 ながし   水(房総) 行ことば
 ながね    尾根 沢を中心にみれば、沢の両側にある尾根をオオナガネといい、沢が二股に別れるところに下りてくる尾根をコナガネという
 なさし  名差し  酒 (越後)
 なびれ    熊
 なめ    槍 (会津)
 にた    毛皮を剥いだあと毛皮の裏についている脂 捨てずに煮て食べる
 のこよこ  のこ横  のこぎり (津軽)
 のじ    狼 (秋田)

   は行
見出し語
文字表記
意味 (特定の地方で使われたものの場合地名)
 ばくなわ    自在(房総) 行ことば
 ばっけ    尾根などの頭のところ ピーク ハッケは獣の頭の意
 はで    春の新雪
 はなくさ  鼻臭  煙草 (越後)
 ひげくり    相撲 (奥州)
 ひら    斜面 ピラとも
 ひらまたぎ    女 (羽前)
 ふちかり  扶持借り  テン (会津)
 ふど    フドッコ 窪地
 ぶっぺい    飯杓子 (山形)
 ぶっぱ  

 マタギの集団狩猟における獲物を待ち構え、撃つ場所。銃を撃つ人の意味もある。ブチバ・マッパとも。

 ぶんべあ    飯杓子 (越後)
 へこ    テン (会津)
 へだ    犬
 ほおたく    猿 (越後)
 ほど    いろり(房総) 行ことば
 ほどむしり    ひばし (秋田)
 ほろけ    老爺 (津軽)

   ま行
見出し語 文字表記 意味 (特定の地方で使われたものの場合地名)
 まがり    杓子 (越後)
 まき  巻き  マタギの集団狩猟において、獲物を取り囲み上で待つ射手の場所に追い込むこと 巻狩り
 またぎ    猟師 狩人 山の神を信じ、クマなどの大型の獣を、昔からの伝統と作法に従って共同で狩猟を行う人々。山にはいると戒律が厳しく、多数の忌み言葉を使う。それを「またぎ言葉」略して「またぎ」とも呼ぶ
 まっち   鍋 (秋田)
 まんつけ   山刀 (羽後)
 みこども  巫女ども  ウサギ ウサギが手を揃えてうずくまった姿を神前で祈る者とみたてて (熊野)
 みみなが  耳長  ウサギ (信州)
 むこおやま  向こう山  猿 (信州)
 むかいまって    マタギの集団狩猟における見張り役、全体の合図役
 むさ    沢の本流
 めが  女鹿  女 >しか (羽前)
 めぐりわか  巡りわか  濁酒 >わっか 
 めだち    老婆 (津軽)
 めども    老婆 (津軽)
 もたら    たわし (房総)

   や行
見出し語
文字表記
意味 (特定の地方で使われたものの場合地名)
 やしない    食事(房総) 行ことば
 やぢ  谷地  湿地 湿地帯
 やすたろ    びっこ ちんば (津軽)
 やせ    狼 (津軽)
 やまげくぁ  山喧嘩  相撲 (津軽)
 やまことば・に・なる 山言葉に成る  死ぬ (越後)
 やまたろう  山太郎  土瓶・雪ひらの類 (摂津)
 やまねこ  山猫  猿 (武蔵)
 やまのねぎ  山の禰宜  ウサギ ねぎ=神主 ウサギが手を揃えてうずくまった姿を神前で祈る者とみたてて (三河)
 よこ    かんな (津軽・秋田)

   わ行
見出し語
文字表記
意味 (特定の地方で使われたものの場合地名)
 わかいしゅ  若い衆  猿 (信州)
 わかぶた  わか蓋  笠
 わし    表層雪崩
 わっか    酒・水 (アイヌ語)
 わっかむぐり  わか潜り  魚

   符号
10
                   

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